連載コンテンツ
ARTICLE連載コンテンツ
- 2024/08/28
- サルバドールズ
月刊サルバドールズ #20
喜谷 悠大/トヨタカローラ栃木株式会社 代表取締役社長
「失敗の要因を徹底的に排除していくことが非常に重要です。」
Profile:
2001年宇都宮高校卒。上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了後、インクス入社。その後ミシュランリサーチアジアに転じ、タイヤ騒音の研究に従事。トヨタカローラ栃木には2014年に入社、同年4月からトヨタ自動車に出向。物流改善や人材育成、デジタルマーケティングなどを担当、2017年に帰任。2024年5月から代表取締役社長。2015年に中小企業診断士登録。1983年生まれ。
Q1:人生において大きな影響を受けた本はありますか?また、よく人にプレゼントする本はありますか?
人に本をあげることがあまりありません。本をあげてそれを読むような読書習慣がある人は、きっと自分が読みたい本をAmazon等で買っているだろうし、まだ読んでいない本もあるのではないか、と思っています。それに相手に対して「あなたの時間を使って、私が勧める本を読め」というは、なんとなく尊大でおこがましいような気もします。ただ、複数の人に『じゃあじゃあびりびり(まついのりこ・作)』という本をあげたことがあります。赤ちゃん向けの絵本でたくさんの「音」が詰まっています。「じどうしゃ ぶーぶーぶーぶー」や「いぬ わん わん わん わん」などリズミカルな言葉が次々と出てきて楽しいです。また表紙を開いた最初のページには「この本は○○ちゃんの絵本です」と名前を記入する欄があります。お子さんが産まれたばかりの人にあげても、お兄さんお姉さん用に持っていっても迷惑になりにくい本だと思っています。
自分自身が大きな影響を受けた本は2冊あります。ひとつは『経営者になる 経営者を育てる(菅野 寛・著)』です。これは経営者に求められるスキルセットの解説書です。経営に必要なスキルをサイエンスとアートに分け、それをいかに身につけるのか、ということを著名な経営者の言葉を引用しながら実践的にまとめています。家庭の事情で将来、経営者になることが想定されていたので、2005年くらいからこの本を参考に少しずつ準備を進めてきました。この本に「マネジメント知識は経営を行うにあたって知っておくべき基礎知識」と書いてあったものの、当時の私はMBAを取りに行く時間もお金も無かったので、そういった知識が学べる中小企業診断士の勉強をして資格を取得しました。
もうひとつは『大野耐一の現場経営(大野耐一・著)』です。トヨタ生産方式の神様である大野耐一氏が1982年に出版した本です。現場経営について読者に語りかけるような口調で書かれており、現地現物の大切さやトヨタ生産方式の基本思想を伝えてくれる一冊です。
Q2:ここ1年以内においてあなたの生活に最も良い影響を及ぼした1万円以内の買い物は何ですか?
ホットサンドメーカーです。仕事が忙しくて子育てに関わる時間がなかなか取れない中で、家族のために何か印象に残ることをやろうと思って。印象に残ると言えば美味しいものだ、と思いホットサンドメーカーを購入しました。これを使って平日休みの日に美味しいホットサンドを焼いています。大学時代に熱工学を学びました。エンジンの研究室で伝熱工学とか熱力学を研究したおかげで熱の伝わり方について詳しくなりました。だいたいどれくらい温まってきているかが分かるので、それを活かしてホットサンドを焼くと表面の焦げ色を安定させることができるんです。最初は非接触型の温度計で測っていましたが、今では感覚でどのくらいの時間焼いたら良い焦げ色がつくのか分かるようになりました。写真にあるホットサンドは焦げたように見えるかもしれませんが、チーズを入れてわざと焦がして作りました。失敗したわけではありません笑。
Q3:自分の中では失敗したと思った出来事が後の成功につながったことがありますか?具体的に教えてください。
新卒で入った会社を2年で退職し、ミシュランというタイヤの会社に入社したことです。そこでタイヤの騒音について研究しました。年に1~2回のフランス出張でクレルモン・フェランという所に行っていました。オーヴェルニュ地方にある都市で、日本で言うと栃木や群馬のような古き良き田舎町といった雰囲気の場所です。ラドゥに研究所があって、そこでもタイヤの騒音の研究を行っていました。1~2週間ほど滞在し、現地でいろいろとディスカッションをしたり、バグの出た箇所を一緒に直したりしました。ヨーロッパの会社は働き方も含め、様々な面で学びが大きく、視野も広がりました。当時は仕事に支障が出ないよう土曜日に出発し、日曜日の早朝にフランスに到着するというスケジュールでした。空港から出るとコンビニも含めほとんどのお店が休みなので食べ物が買えません。そのためカップ麺を持って行ったり、現地にある安いレストランに行ったりしました。安いと言っても1食2,000円くらいするので、ちょっと割高です。今はもっと高いのかもしれません。日曜日のフランスにはそういう不便さがありました。でも、一人当たりのGDPは日本よりも高いんです。長時間労働よりもきちんと仕事で結果を出すことが求められていて、みんな結果を出すことに集中して早く帰っています。日本は今になって盛んに「労働生産性を高めよう」と言われていますが、それが実現したとき日本の働き方はヨーロッパに近づいていくのではないかと思っています。
最近、弊社で従業員満足度調査を行った結果、30~40代の育児世代の休みに関して課題があることが分かりました。そこで今年から従業員満足度向上や採用を見据え、繁忙期の2~3月を除き月2回、日曜日休みを設けるようにしました。今のところマイナスの影響は限定的で、いろいろな面でプラスの影響が出ています。ただ5月はGWで3日間の日曜休みを設けたことで、日曜日しかご入庫いただけないお客様にご迷惑をおかけした感があります。ちょっとやりすぎたかなとも思っています。
Q4:よく思い出したり、人生の支えとなっていたりする言葉はありますか?ことわざや誰かの言葉、あるいは自分が考えたオリジナルな言葉でも構いません。
大学のときの指導教員の言葉で「努力は積分で効いてくる」です。
これは大学4年から大学院2年まで見てくださった先生の言葉ですが、要は能力もそうだし、知識やスキルもそうだし、技術もそうなんですけど、少しずつ少しずつ積み重ねてるものが後々になって大きな差になるという意味です。日々の努力というか、毎日の積み重ねが後で大きな差になるということを「積分で効いてくる」と表現するのはちょっと特殊な感じもしますが、理系だったのですごく響きましたね。
Q5:今まででお金、時間、エネルギーなど何でもよいが自分のリソースを投下して最も価値のあったものは何だと思いますか?
前に勤めていた会社の時に携わった仕事でひとつだけあります。タイヤから出る音に関することで、寝食を忘れるくらい夢中になって取り組み、手応えのあったものがありました。(本当はご飯も食べていたし、寝てもいましたが笑)内容に関しては守秘義務があるのでお話しできません。
今の仕事で最も価値のあったことは従業員満足度調査を行い、その自由記述解答をテキスト解析にかけて社員が思っていることを抽出し、会社の方針に反映していることかもしれません。リソースを投下したという認識はないのですが、12~30歳くらいまではプログラミングをしたり、物理現象のシミュレーションをしたり、コンピュータを使って何かするということを延々とやっていました。そのときに学んだことが今に活かされています。
あとは社内で管理職やその候補者向けにマネジメント教育を実施しています。中小機構のMANABee Campusを活用し、管理者の役割や戦略、財務会計、マーケティング、その他コンプラ系など1年間かけて全9回で一通り学べるようにしました。時間がかかるので大変ですがマネジメント教育を行った結果、店長や店長候補者が育ち、いろいろと良い影響が出てきています。日本の会社で1番不幸なことのひとつが、トップマネジメント層や管理職としての肩書を持っている人たちのマネジメントスキルが圧倒的に不足していることです。政府の方針でもマネジメント人材を3,000人増やすという計画が出ていましたが、正直ゼロの数が3つ足りないと思います。スパンオブコントロールが7~15で平均を10とすると日本全体で本当は600万人くらいはマネジメント人材を増やさないと間に合いません。中小企業診断士がもしその役割を担うなら1人あたり200人育成しなければいけません。
それ以外のことだと家族、特に子どものことですね。子どもが幼稚園に入園する前、名古屋の東山動物園の近くに住んでいたことがありました。当時は東山動物園の年間入場券を購入し、土日はずっと動物園にいましたね。子どもも「飽きない」と話していました。栃木県に戻って来てからは栃木県立博物館もよく行きました。公園の中を散歩したり、博物館の中を見て回ったり。いっぱい動き回って疲れて昼寝してもらうという作戦です笑。
Q6:自分の中でくだらないけれどなぜか止められないクセや習慣はありますか?
もっと寝ていたいときでも朝5時くらいに起きて、録画していたテレビ番組を見たり、YouTubeを見たり、マンガや本を読んだりしてダラダラしてしまうことです。でも日によっては集中してやらなくてはいけないこともあるので、パソコンの前で作業するときもあります。
何もすることがないときはキャンプ用品を紹介しているYouTubeを延々と見ちゃいます。真空断熱タンブラーとかが好きで、気付いたら買っていますね笑。伝熱工学を大学のときに学んでいたこともあって、断熱系の商品に惹かれてしまいます。この間もシマノが販売しているクーラーボックスのアイスボックスプロが気になって買ってしまいました。妻に怒られました笑。真空断熱パネルが入っていて中の物が11日間くらい解けないんです。学んだことを活かし、社内でもクーラーの効きが悪い箇所などに断熱のためのビニールを取り付けました。エネルギーを節約するなら、まず断熱だと思います。真空断熱タンブラーに関しては買いすぎて収納に困っています笑。
Q7:ここ数年であなたの人生をよりよくしてくれた新しい考え方や行動はありますか?
体が資本なので自分の健康に関する情報を測定し、デジタルツールで記録しています。毎日の食事や寝た時間など写真を撮って記録するものもあれば、テキストで記録するものもあります。ダイエットをしていて、社長に就任するまでに80キロ以下にすることを目標にしていました。ちなみに今79.5キロなので目標達成です。最終的には高校生のときと同じ63キロを目指したいです。昔、購入したスーツがあるのですが、着る機会がなくてもったいないと思っていて。それを着られるようになりたいですね。高校生の頃は毎日片道8.8キロくらいの道のりを自転車で通学していました。当時は成長期だったし、自転車通学で消費するカロリーも凄いし、運動もしていたので食べても太らなかったですね。
現在、活用しているデジタルツールはこんな感じです。
・あすけん:食事記録
・タニタHealthPlanet:体重、体脂肪など
・Fitbit:睡眠時間、運動量など
・Omronの血圧計:血圧
測定できないものをコントロールすることは無理ですが、測定できるものに関してはコントロールしようという意識をもって取り組んでいきたいです。測定しないと大好きなポテトチップを食べすぎてしまうので、節制するためにも自身の健康に関する値を測定してコントロールしていくことは重要だと考えています。
Q8:これから新たな挑戦をしようとしている若者へ伝えておきたいアドバイスはありますか?あるいは他者からのアドバイスで無視した方が良いと思うものはありますか?
新しい挑戦をするとき最も大切なのは、取り組む課題が自分にとって「自分ごと」になっているかどうかです。自分が困っている問題や自分の身近な人が困っている問題に対しては本気で取り組むことができると思いますが、そうでない課題にはなかなか本腰を入れることが難しいと思います。「自分ごと」にならない課題については無理に取り組むのではなく、次の課題に進むのが良いと思います。それが決して無駄になるわけではないし、次々に新しい挑戦をしていくのは良いことです。ただし、本当に全力を尽くして取り組むべき課題を選ぶことが重要です。
「まずは挑戦しよう」といったアドバイスを聞きますが、これは無責任になりがちです。特に心配性な人にとって、挑戦には多くのリスクが伴います。ですから、失敗の要因を徹底的に排除していくことが非常に重要です。新しい事業や挑戦には失敗する可能性が常に付きまとうし、ビジネスは自然に任せて進めていくと失敗する運命にあると考えています。ですから失敗の要因を見つけ、一つひとつ対策を講じて成功へと繋げていくことが大切だと思っています。ビジネスの成功はいろいろな要因や運なども重なって成し遂げられるもので、他人が真似できるものではありません。しかし失敗を防ぐ方法は共有できます。あらゆる失敗の可能性を見つけ、それを潰していくことが重要です。栃木県の県民性なのか、私には心配性な面があります。しかしこの特性こそ成功への鍵になると考えています。新しい挑戦をする際には栃木県民の心配性を活かして、失敗を最小限に抑える努力をすることが大切だと思います。
Q9:ここ数年で、うまくNOと言えるようになったこと(ビジネスでもプライベートでも)はありますか?断るコツはありますか?NOと言えるようになった結果、新たに気づいたことや役に立ったことはありますか?
上手く断れているかは分かりませんが、時間が有限なので断らざるを得ないことが多いです。時間の使い方の大枠を事前に設計しておくことが必要ですね。昔2chコピペで壺に石とか砂を入れるたとえ話がありました。壺に石や砂利を入れるとき小さな砂利や砂から入れるのではなく、1番最初に大きな石を入れないと石が入る余地が無くなってしまう、という話だった気がします。
自分の人生にとって「大きな石」にあたるものは何なのか。その「大きな石」にあたるものを1番最初に自分の人生という「壺」に入れてしまわないと二度とそれが入る余地がなくなってしまう、ということになります。なので家族との時間や社内の重要なコミュニケーション、人材育成のための時間、自己成長のための予定などは前もって先に入れています。以前はゴルフにも誘われていたのですが、実はゴルフはあまり好きではなく150~180くらい叩いてしまっていたので、やっと誘われなくなりました笑。
Q10:行き詰まった時、考えがまとまらなかった時、集中力が途切れた時、どうしていますか?
突発的に担当者や担当部門や店舗から問題が上がってきて、それに対して判断をしたり、道筋を立てたりするのが仕事なので、集中して作業できる時間をあまり取ることができないのが現状です。なので必要なときは朝早く起きてコーヒーを飲みながら作業することもあります。考えがまとまらないこともありますが、まとまっていたとしても部下に自分事として動いてもらいたいときには、あえて考えがまとまっていないフリをして部下に考えを聞くこともあります。
日々の業務に追われる中でトヨタ生産方式の基本的な考え方を大事にしているのですが、その2つの柱は「ジャストインタイム」と「自働化」です。「ジャストインタイム」とは必要なものを必要な時に必要なだけ供給するという意味です。トヨタ自動車が開発した効率化の仕組みです。自動車のように何万種類もの部品が必要な製品を扱う工場では、効率のよい生産が必要になります。「ジャストインタイム」は自動車部品を効率よく仕入れ大量生産を可能にし、ムダ・ムラ・ムリを防ぐことができる管理方法として知られています。日々いろいろな業務に追われているので、じっくり課題解決に取り組める時間が無いのが現状ですが、合間の時間で指示を出したり、その場で答えを出したりその都度できる範囲で対応しています。なるべく私の判断でほかの人の仕事を滞留させないように心がけています。
もう一つの「自働化」とは“自動”ではなく、“自働”と書きます。これは何か問題が起きたときに機械を止めて、みんなでその課題を解決しましょうという考え方です。問題が起こると組織の1番上の立場の人にその問題が上がってくるのですが、そこでも解決できないものは最終的にトップである私のところまで上がってきます。何十軒か店舗があって、そこで働いている従業員が400~500人いるのですが、いろいろな問題が起こります。毎日2件くらいは1人の人間が経験する1年で1番最悪だと思うようなことが起きます。そういった問題に立ち向かえるよう人材教育には力を入れています。その都度、目の前で起こっている問題に対して冷静に対応していくテクニック等も必要だと考えています。
Q11:サルバドールされたアートや芸術はありますか?単純に好きなアートや芸術でも構いません。
Good Charlotteの『Lifestyles of the Rich & Famous』は大学生の頃に流行っていて聴いていました。Lucky Boys Confusionも好きです。パンクロック的な世界観は大切にしたいと思っています。物事を自分の流儀でやるために必要なスキルを身に付けるとか権威に逆らい常識に挑むといった世界観ですね。トヨタ自動車も今でこそ大企業ですが、日本の道に日本人の手で作った車を走らせたいという想いでここまで成長してきました。逆境の中で作り始めて、資金もショートしそうな中でトヨタ生産方式という独自の手法を生み出し、最終的に世界を席巻しました。そういった精神はパンクロックの世界観に通ずるものがあります。そういう精神ってこれからの日本に必要なのかなと思っています。「経営にパンクを。」なのかもしれません。自動車を取り扱う企業だからタイヤのパンクは困りますね笑。
Q12:人生のターニングポイントにおいて、あなたに大きな影響を与えた人物は誰ですか?(有名人でも誰でも構いません)または誰にサルバドールされましたか?そして誰をサルバドールしたいですか?
大きな影響を与えられたのは妻です。妻は同級生で昔から知っている仲ですが、付き合い始めたのは20代のときでした。きっかけは同窓会での再会です。同級生なので地元の人脈がだいたい共通しています。一人暮らしをしていた時は結構なインドア派で、休みの日はほぼ家にいました。30歳ぐらいから一緒に住み始めたのですが、それからは休みが合う日はどこかに出かけるようになり、視野は広がったのかもしれません。(引きずりまわされるという見方もできなくはないです。)もし妻と休日にドライブに行くようになっていなければこんな生き物(写真参照)に出会うことなんてなかったのではないかと思います。
そして子どもに救われています。能力的に子どもに勝てないです。経験では勝っているのかもしれませんが、頭の使い方や記憶力などにおいて勝てる気がしません。だから私たちの世代ができることって子どもの邪魔をしないことなんじゃないかな、と思うんです。人間は永遠に生きることはできません。20年、30年経ったときに世の中の真ん中にいるのって誰かな、と考えた時にたぶん自分たちは若干引いていた方が良さそうな気がしています。年齢的にも60歳とか70歳になっているし。そういう意味で子どもや若い世代の邪魔をしない方がいいなって。自由にやればいいと思っています。自分の子どもが幸せに暮らしている世の中になっていたらいいなという考えがこの年齢になって芽生えてきました。片や今の世の中ってどうかっていうと自分さえ良ければ良いという考えも多いですよね。そういうところも徐々に変わっていくといいなって思うんです。子どもが生まれたら自分以降のことも考えるようになりました。
サルバドールしたいと言うと偉そうな感じになってしまいますが、何かしらお役に立ちたいと思っているのは社員とお客様ですね。
LINK: