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2022/09/05
月刊サルバドールズ

 

月刊サルバドールズ #05

鳥倉大介/合同会社鳥倉再生事務所  代表

 


 

 

 

 

「追い込まれた状況になればなるほど逆にインスピレーションが湧いてきます。」

 

Profile:

鳥倉大介

1979年4月7日生まれ。北海道帯広市出身。難問解決コンサルタント。これまでに返済や営業赤字で苦しむ多くの経営者を支援し、再生の道を作り上げてきた。経営者と一緒に会社に合わせた再建策を考え実行し、どんな難問にも立ち向かう。民事再生申請会社・M&A仲介・投資ファンド・コンサルと立場を変えながらも17年80社超の再建に従事。認定事業再生士・NLPマスタープラクティショナーの資格を保有。財務アプローチと社長の意思決定を両輪として重視し、事業再生を推進する。

 

 

 

Q1:人生において大きな影響を受けた本はありますか?また、よく人にプレゼントする本はありますか?

は好きでよく読みます。若い人にプレゼントするとしたら岡本太郎の「自分の中に毒を持て」かな。良い本だと思います。自分を大事にし過ぎる人は多いじゃないですか。それで何も自分のやりたいこともやらず、言いたいことも言えずにしている人が多い気がします。何が理由で動けないかは人それぞれですが、私は岡本太郎くらい飛び抜けて生きて問題ないと思っています。リスクにチャレンジして本当に死ぬかといえば、意外と死ぬわけではないし。「経験がない」とか「若い」とかそういうことを理由に挑戦しない人がいますが、それは全く意味がないし、気にしなくていいと思います。
三谷幸喜さん脚本の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も面白いですね。「経験もないのに自信もなかったら何もできない」これはドラマの中で義経が言ったセリフです。普通は経験を積んで自信がつくと思いがちだが、経験は大そうなものである必要はない。学生時代に積んだ経験で十分だと思います。人間関係や組織は大人になってからも悩む問題。大人になるとお金や歴史、経緯など既にそこにある枠を意識して関わらないといけないが、本質は人の問題だと考えます。学生時代はお金や過去の経緯を意識しなくても大丈夫だったし、人間的なスキルで解決しようとします。大人になるとそれをしなくなる。結果として答えから遠くなる。基本的には学生時代で身につけたスキルで十分解決できると思います。資格を取得したりスキルを身に付けたりすることにこだわると本筋から遠くなる。その結果、人間的な調整や努力を軽んじるようになってしまう。相手を知識や権威で納得させようとする。これでは結果として解決から遠くなってしまいますね。
軍司貞則さんの『踊れ!―「YOSAKOIソーラン祭り」』もおすすめです。6月の札幌を興奮の渦にする「YOSAKOIソーラン祭り」を1人の北海道大学の学生が企画し、実現するまでの過程とそれに関わる群像ドラマを描く青春物語です。1人の学生が地域の伝統として根強く残る一大イベントを作り上げていたという内容に感銘を受けました。大人の理屈で若者の努力が潰れていく現状。それでも実現できる行動力がこの本には書いてあります。22、23歳である程度の人間性は完成しているんです。だから社会に出るんだと思います。何かをやりたい、成し遂げたいと思っている人はすぐに動ける。人格の形成を22、23歳までやってきたのに、なぜ会社選びを人生の重要事項にしてしまっているのだろう…と感じます。

 

 

Q2:ここ1年以内においてあなたの生活に最も良い影響を及ぼした1万円以内の買い物は何ですか?

葉植物です。観葉植物って1万円しないものが多いんです。枯れたらどうしようと思うと、手を出すのを躊躇してしまいますが、そんなに高価でもないので3〜5鉢を一気に買うことをお勧めします。祖父が園芸店をやっていたことがあって。自分は葉っぱを見て何が楽しいのかと思っていたが、年を取ってくると良さが分かりますね。複数鉢を買うと、鉢同士が枯れないようにがんばろうと話し合っているような気がするんです。下手くそで素人の私が世話をしても、枯れずにいてくれています。カフェとか図書館で勉強している人がいますが、自分の家と部屋の居心地が良くないのでは…と思ってしまいます。自宅は誘惑が多いとかよく言いますが、居心地が良ければ集中できるはず。勉強しに図書館やカフェに行って苦労している人がいるが、自分の環境を見直した方が良いのでは、と思います。観葉植物を育てていると「空気の入れ替えをしよう」とか「太陽の光を入れよう」とか温度や湿度を考える機会ができます。それって環境を整えるのにも役立つんです。後はモーニングルーティン。鉢植えに水をあげたり、葉っぱに霧を吹きかけたり。人間って自分のためには意外と努力できない生き物ですよね。人のためとか飼い犬、飼い猫ためなら動ける。観葉植物もそれに近いものがありますね。

 

 

 

Q3:自分の中では失敗したと思った出来事が後の成功につながったことがありますか?具体的に教えてください。

々な失敗をしています。一番最初に再生案件に関わったのは24歳の時。売上が3億、借金が116億円あった企業でした。今はなかなかお金を貸してくれませんのでこういうことは起きませんが、バブルの時代ではこういうケースがありました。結局その企業は民事再生をして再建することになりました。借金を10億まで圧縮しました。旧和議法が民事再生法に切り替わった2000年から少し後の2006年の頃の話です。民事再生による再生配当を実施する必要がありましたので、営業黒字化する必要がありました。この会社には3年半在籍していました。事業再生にチャレンジしてみたかったんです。当時、現場で対応できる若い人を募集していました。何の経験もありませんでしたが、若くて行動力のある人間がよいと選ばれ、事業再生のためにいろいろとやらせてもらいました。営業企画をしたり、営業に回ったりしました。結果、黒字化に成功しました。やれることは何でもやって黒字化しましたが、最終的には人間関係が難しくなって辞めざるを得なくなり退職しました。世の中、成果を出せば人は評価してくれる、人生が開けると思っている人は多いと思いますが、そんな単純な1対1の関係ではないってことをこの経験から学びました。当時はまだ至らぬところもあり、人を傷つける言葉を言っても気にしませんでした。いかに合理的であるか、論理的であるかそれを意識して経営を進めたわけですが、成果を出しても評価されませんでした。「こんなことをやっていたら潰れるのは当たり前」「変わらないとまた同じことになるぞ」など…そんなことも言った気がします。経済的に成功しているか失敗しているかの判断は、人にとって比重が異なります。潰れるべくして潰れる思考‧行動パターンは当然ありますが、経営者が内発的に変わりたいと決意した時、既に経営が破綻の崖っぷちに来ている場合もあります。逆に崖っぷちに立たされて初めて内発的に気付きを得られるのかもしれません。だから自分に事業再生を任せてみようと思ってくれたわけだし。自分の戦略としては先回りして転ばないようにしました。より成功確率が高そうな方向に誘導していったのですが、今考えたら大きなお世話だったかもしれません。自分がいくらアドバイスをしても、それは外側から変化を強制されているだけで、問題の解決には至っていません。そうすると同じことを繰り返してしまいます。経営者が内発的に気付くことが大事です。当時は事業再生に必死になりすぎて分かりませんでしたが、今はそれを意識して仕事をしています。経営者の行動や考え方が根本から変わらないと経営は良くなりません。事業再生は経営を変えるチャンスでもあります。経営が苦しくて、経営者自身が絶望の淵に立って死にたいと思い詰めてしまうような時もあります。「生きたい」と強く思うことや内発的な気付きがあって初めて事業再生にチャレンジできるんです。「ピンチがチャンス」と言われるのは人間の本質に気付けるどうかということです。「自分がどう生きたいか」を本気で考えなければいけません。

 

 

Q4:よく思い出したり、人生の支えとなっていたりする言葉はありますか?ことわざや誰かの言葉、あるいは自分が考えたオリジナルな言葉でも構いません。

島みゆきが好きです。彼女は北海道の帯広柏葉高校の卒業生で、自分と同じです。とっても自由でおおらかな高校でした。「宙船」という曲にある「お前のオールを任せるな」という歌詞。とってもいい言葉だと思います。自分の人生を生きていない人は意外といます。色々なアドバイスをしてくれる人はいますが、その人にオールを預けていいのかを考えてほしいなって思います。人はポジショントークから自由にはなれません。アドバイスをする側の大人も。その大人も何かしらのポジションを背景にあなたにアドバイスをしているということです。学校の先生なのか、上司なのか、先輩なのか。何かに帰属している人はそこに帰属した背景から自由にはなれません。それは結局あなた自身を見てアドバイスしているわけではないということです。もし人のアドバイスを参考にするのであれば、ポジショントークから自由になっている人のアドバイスを参考に、あなた自身のことを真に考えてくれているアドバイスだけを受け止める方が良いです。完全無欠な人はいないと思います。どうしても立派な人で権威がある人が良いことを言っていたら聞きたくなってしまうものです。でも、それが本当にあなたのためになるかは分かりません。

 

 

Q5:今まででお金、時間、エネルギーなど何でもよいが自分のリソースを投下して最も価値のあったものは何だと思いますか?

NLPを勉強したことです。その結果、すごく人生が楽になりました。人間関係での悩みがなくなりました。プラクティショナーとマスタープラクティショナーを受講して、資格も取得しました。資格が重要というよりか、使えるようになっているかが大事です。NLPに関して書かれた本はたくさんあります。一見、難しく書かれていたり、本当に本の内容通りに上手くいくのかなと疑問に思ったりするかもしれませんが、1度触れてもよいですがNLPはワークを体験することをおすすめします。今から21年前、22歳の時にコーチングを学んでいました。その時も人の可能性、質問の可能性をすごく感じましたね。NLPはコーチングよりやや遅れて日本に入ってきたと記憶していますが、最初にNLPを学んだ時の感想は「コーチングと違って変なものだ」でした。NLPというのはNeuro Linguistic Programing(神経言語プログラミング)の略称で、別名「脳と心の取扱説明書」とも呼ばれている最新の心理学です。NLPはベトナム戦争から帰還したアメリカ兵と深い関わりがあります。彼らは戦争体験のショックからPTSDを発症したり、ドラッグに溺れたり、アルコール依存症になったりしてアメリカ社会を混乱させたという問題がありました。アメリカは軍人を大切にする文化があります。帰還兵や傷病兵の心身を回復させ、社会になじめるよう国をあげて支援したのですが、それは容易なことではありません。カウンセリングなど心理療法的なものに一生懸命取り組みましたが、回復させるのは難しかったそうです。その中で卓越した成果をあげているカウンセラーが何人かいるという話になりました。アメリカの統計はすごいですね。データを見て、成果をあげているカウンセラーたちが行っていることをレシピ化したものがNLPの始まりです。単に合理的かどうかではなく、人間の脳がどう感じるのかどう考えるのか、その思考プラグラムに沿って話を進めます。NLPはこれを治療や癒しに活用しているんですね。もちろん五感とも密接に関わってきます。特に重要なのが聴覚、視覚、体感覚。この3つに人間は大きく左右されています。人によって得意不得意な感覚があることに気付けるかどうか。一般的に文字を読んで勉強できる人は視覚が強い、話してもらえば分かる人は聴覚が強い、自分でやってみないと納得できない人は体感覚が強い、と言われています。このことを頭に入れて対話すると、自然と相手の行動や発言に対して本人の意図をくみとり、より深く考えて寄り添ってあげることができるようになります。人間は意外と思ってもないことを言ってみたりやってみたりする生き物ですからね。相手を理解しようとする気持ちが大切です。

 

 

Q6:自分の中でくだらないけれどなぜか止められないクセや習慣はありますか?

を買って積んでおくこと。これがなければ預金がもうちょっと増えているかも。ひたすら毎日買っています。気になったら買ってしまいます。コンサルタントにとって仕入れみたいなものです。酒に酔っ払って本屋に行くと夢が広がって楽しくなります。ネットだと自分の興味関心がある分野しか検索しないですからね。本屋だとそうでないものも視界に飛び込んでくるから楽しいです。ちょっとお酒が入っていると自分の枠も外れているので可能性をさらに大きくできます。

 

 

Q7:ここ数年であなたの人生をよりよくしてくれた新しい考え方や行動はありますか?

ロナが何だったのかをもう一度社会で見つめ直す必要があると思っています。感染したら大変とかワクチンがどうであるとかそういうことを議論したいわけではありません。人と人とのつながりに対してすごいインパクトがあったと思いました。コロナは家族や会社や地域の関係性をズタズタにしてしまった。家族がコロナに感染したら隔離しようと考えます。防疫の観点からは正しいのかもしれませんが、家族は看病して一緒に死ぬくらいの覚悟をしていると思います。家族ってそういうものです。コロナに感染すると、人とのつながりや外の世界とのネットワークを遮断されてしまう。様々な施策は感染抑制に必要だったと思いますがアフターコロナにおいては、人のネットワークをつなぎ直し、絆というものを改めて考えたいです。

 

 

Q8:これから新たな挑戦をしようとしている若者へ伝えておきたいアドバイスはありますか?あるいは他者からのアドバイスで無視した方が良いと思うものはありますか?

の若い人は動機が純粋だと感じます。「のしあがろう」とか「お金が欲しい」とか「モテたい」とかそういうところに根ざしていない感じがしますね。彼らより上の世代のおじさん達がZ世代(1996〜2010年生まれの世代)を理解できていないと思います。立派な話をしている人がどんな欲求、欲望に根ざしてその話をしているのか考えると、発言や行動にある程度の一貫性があるように感じます。それに対しておじさん達はZ世代に欲求や欲望をあまり感じないので、挑戦に対して持続可能性があるのかが分からない面があります。また反対に、Z世代はおじさん世代が知らなかったり、関心がなかったりすることに対する欲求、欲望を持っている可能性があります。フォロワーの数やイイねの数、ネットワークの数やLINEグループの中での評判とかに価値を置くことを重要視しているように感じますが、そこは否定しません。それを踏まえ他者からの評価で自分は満足できているのか、自分が納得できる人生を生きよう、と投げかけたいです。自分の生き方を自身で決めさせてくれないアドバイスはアドバイスではないと思います。

 

 

Q9:ここ数年で、うまくNOと言えるようになったこと(ビジネスでもプライベートでも)はありますか?断るコツはありますか?NOと言えるようになった結果、新たに気づいたことや役に立ったことはありますか?

分の仕事は調整役です。イエスとノーを決断するのが大事な仕事の一部ですが、自分の中で既に白か黒か決めた上で、相手には玉虫色に見えるのが大事だと考えています。論理性で切り刻んで相手を屈服させても相手は納得しないし、いつか覆してやろうと思うはずです。何かを決めなくてはいけない場面において「あなたの意見とは異なる結果かもしれないけれども、この部分にはあなたの意見は反映されていますよ」と相手が納得できるような結果に落とし込む。ビジョンがないと目の前の議論の勝ち負けに固執して相手を叩くことに走ってしまう。調整と根回しは課題解決の本質です。イエスとノーを決めることにエネルギーを注力しますが、問題は決めた後にそれが実現するかどうか。わだかまりがないように調整し続けていくことが大切です。

 

 

Q10:行き詰まった時、考えがまとまらなかった時、集中力が途切れた時、どうしていますか? 

択肢を広げます。決めてしまうと一本道をいくしか無くなってしまうので、ギリギリまで決めたくありません。なので、行き詰まってしまうことが多いです。そうすると締め切りまで粘ってしまうし、苦しいです。レポート提出までに残り5時間という時もあります。徹夜すれば良いや、夜は静かで良いな、と思いますが実際は苦しいです。しかし残り5時間でできることって何だろう、と考えるとだんだん研ぎ澄まされてきますね。追い込まれた状況になればなるほど逆にインスピレーションが湧いてきます。これは生存本能ですね。職業柄、人の命を左右してしまう場面が多いからでしょうか。事前に打ち合わせで方向性は決めますが、本当にそれで良いのか何度も考えてしまいます。なので、自分を追い詰めます。常に追いつめていると自律神経が悲鳴をあげるので多用はせず、勝負時に限ります。

 

 

Q11:サルバドールされたアートや芸術はありますか?単純に好きなアートや芸術でも構いません。 

本太郎が好きです。あと縄文土器も好きですね。中島みゆきを聴きながらレポートを書くと力が出ます。本などの影響が大きいかもしれません。お経とか祝詞とか、詩として見ても優れていると思います。日本は島国根性と批判される面もありますが、島に生きる人間として人を追い詰め過ぎない気風が本来あったと思うんです。調和を重んじるし、白と黒とを決めて相手を絶滅させない一面もあります。こういった感性が事業再生に活かされればもっと多くの人を救えるのではと思います。

 

 

Q12:人生のターニングポイントにおいて、あなたに大きな影響を与えた人物は誰ですか?(有名人でも誰でも構いません)または誰にサルバドールされましたか?そして誰をサルバドールしたいですか?

い大人にはたくさん出会ってきました。特に印象に残っているのは新宿のおでん屋の大将です。二つ名としておでん屋の顔をした相場師と言われ、馬主でもありました。ご実家が戦前朝鮮で財閥をしていて。戦争に負け全財産を失って逃げ帰り、親戚に身を預けて生き延びた方です。その後、中学生にならないくらいの年齢で毛糸の行商で身を立て全国を回り、流れ着いた浅草でキャバレーのボーイになりました。ボトルキープという仕組みを考えたのはこの方だと聞いた時は驚きました。当時はサントリーの方も良くお店に来ていましたね。酒蔵を再建している時にいろいろなアドバイスをもらいました。店が開く前に行って商売の話をするのですが、1〜2時間説教されます。その中で商売は浮き沈みがあるものだと教わりました。需給関係が価格で成立しているというのは経済学の基礎ですが、買い手が存在しない市場は成立しないということを強く言っていました。戦後は円安から円高へと変化が激しく、闇市の時代は物を持っているか持っていないかで売り手が有利になることもあったそうです。一時的な要因の中で増長するな、ということも教わりました。さらにその方には「セールスエンジニアになれ」とも言われました。「全く同じものを与えられて全く違う売り方をして見せよ」と。この人の場合はボトルキープ。職人がやっている仕事っていうものは合理化の余地がある。ビジネスとして展開すれば大きな市場を取れる可能性がある。これが売り手目線から買い手目線になれということなんだな、と学びました。事業再生が必要な人をサルバドールしたいです。自分の仕事は理論と実践。特に実践が難しいです。理論をアドバイスしてくれる人はたくさんいましたが、実践できず現場の人が苦しむ。命がかかっている。連帯保証の仕組みがなくなるか改善されるまでは事業再生は命がかかった仕事であると考えています。経営者の財産が失われる危険、それが一家離散に繋がることもあります。そうなると生きている意味が分からなくなる。経済的な問題で死ぬ必要はないと思いますが、本人の価値観が大きく揺らいでしまう。今までの人生をかけて築き上げてきたものを失う可能性がありますから。絶望しても仕方がない状況です。そんな人たちにこそ事業再生は必要だと考えます。今後、事業再生と廃業支援はセットとなり、命の手触りに近い仕事になっていくと思っています。高齢の経営者に商売が傾いてきて資金繰りが厳しくなることを話すと「コンビニで働こうかな」と冗談のように言うんですよね。コンビニの大変さを知っていたらそんなこと言えたものではありません。経営者は部下や取引先に気を配ってもらって仕事の段取りをして商売しているけど、コンビニで働こうと思ったら誰のお膳立てもなく働かなくてはいけません。店によっては年齢が高いとレジ打ちもさせてもらえないこともあります。夜は品出ししながらモップがけをします。こういう話をすると「今の仕事の方が恵まれているんだね、もう少し頑張ってみようかな」と覚悟してくれます。現実逃避は誰もがしたくなりますが、逃げた先のリアリティを追求する人は少ないです。何となく夜逃げしたり、自殺を考えたりする。その後を具体的に考えると逆に勇気が湧いてきます。ある社長は木の枝を見る度に「あの枝で首を吊った時に上手くいくかな。それとも枝が折れるかな…とずっと考えていた」と話していました。事業再生は資金繰りがメインになってしまうものですが、資金繰りが得意で社長になる人はいません。資金繰りは緊急かつ重要な仕事です。それ故に常に最優先事項になってしまい、その人の脳を占領してしまいます。すると経営改善の方法や顧客満足といった商売の本筋から外れてしまう。事業再生を通じて資金繰りを改善し、本来の商売の在り方を見直すことができるようにすることが自分の仕事です。

 

 

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