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2022/12/07
月刊サルバドールズ

 

月刊サルバドールズ #07

加藤弥生/アートディレクター

 


 

 

 

「アートには未曾有の事態に立ち向かう力があります。」

 

Profile:

加藤弥生

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業。中国中央美術学院大学院修士課程修了(国費留学)。アートディレクター、デザイナー。持続可能な社会をテーマとし、グラフィックデザイン領域を基軸に、ジャンルを越境したクリエイションを得意とする。自身がデザインした世界初の「紙カミソリ®︎」では、グッドデザイン・ベスト100、日本パッケージングコンテスト経済産業省産業技術環境局長賞、発明功労賞、iF DESIGN AWARD 金賞等、国内外の受賞多数。六本木アートナイトにて日比野克彦氏とのコラボレーションアート作品、COACH創立70周年を記念した世界に一つしかない「Duffle」バッグデザインを発表するほか、グラフィックデザインではブランディングからエディトリアルまで一貫して担う。 

 

 

Q1:人生において大きな影響を受けた本はありますか?また、よく人にプレゼントする本はありますか?

年くらい前に子どもの塾から借りた「大きな森のおばあちゃん(天外伺朗・著)」という本です。子どもの読み聞かせ用に借りたのですが、読みながら自分が号泣してしまいました。ちょうどいい厚さの単行本で、子どもから大人までどの年齢の方でも読みやすいと思います。気軽に読めるので、一緒に活動する仲間や友人など結構いろいろな人にプレゼントしています。著者の天外伺朗氏はソニーの元上席常務でAIBOの開発者です。退職後にこの本を出版しました。
この本のテーマは「命の循環」です。アフリカに住む象たちに起こった実話をもとに作られた童話ですが、本の内容を通じてガイア理論(※1)を説明することもこの本のポリシーとなっています。話の中心になるのは子どもの象エレナと群れのリーダーであるおばあちゃん象。ひどい干ばつの中、リーダーであるおばあちゃん象を先頭に象の群れが食料や水を探す旅を始めます。長い旅は厳しく、途中で命が尽きてしまう象も…。やがて一つのオアシスを見つけると、リーダーのおばあちゃん象や、年老いた象達はお腹を満たし、身を隠すようにして自ら死んでいきます。それは植物の種をお腹に蓄えた自らの身体を大地に差し出し、長い年月をかけて、のちの世代に繋がる豊かな森の一部になることを意味します。象自身がプランターの役割を担い、緑がなかった場所に象の形の小さな森ができあがる。方々にひっそりとできた小さな森は、いつしか繋がり、大きな森へと成長します。これこそ、まさに命の循環であり、地球という大きな生命体の中で起きている自己調整機能とも言えるでしょう。

 

※1 ガイア理論…地球と生物が相互に影響しあうことで、地球がまるでひとつの生き物のように自己調節システムを備えるとする理論。1960年代にイギリスの生態学者であるジェームズ・ラブロック氏が提唱した。生物は地球環境に適応するだけでなく、環境に働きかけて変化させるという説が、当時としては新しかった。「ガイア」という名前は、ギリシャ神話に登場する大地の女神にちなんでつけられた。
地球の自己調節システムとは、人が汗をかいて体温を調節したり、発熱して病原体の力を弱めたりするように、地球自体が環境を一定に保つためのコントロールをする仕組みのこと。

 

 

Q2:ここ1年以内においてあなたの生活に最も良い影響を及ぼした1万円以内の買い物は何ですか?

桑金属の「ホーロー クラシカルブラン デザートサイズ カトラリーセット」です。
金属のカトラリーにホーローをコーティングしたもので、純白の爽やかな色合いが食卓に映えると思い購入しました。ホーローなので丈夫ですし、孫の代まで使えます。日々の生活は「食」を通じて潤っていくと考えています。高桑金属のホーローカトラリーシリーズの初期型は、フォルムがストレートでシンプルなデザインでした。後発のクラシカルブランシリーズは、シンプルさやカジュアルさを適度に残しつつ、上品でクラシカルな要素も持ち合わせています。カトラリー自体に色気があるというか、潤いがあるというか。このカトラリーがあるだけで食事のシーンが豊かになった気がして、日々のモチベーションが上がります。

 

 

Q3:自分の中では失敗したと思った出来事が後の成功につながったことがありますか?具体的に教えてください。

蔵野美術大学を卒業後、好きだった現代アートに関連する仕事ではなく、印刷会社に就職しました。美しい文字組や印刷工程などの分野で下積みをし、手に職をつけたいという思いもありました。当時、印刷会社での仕事は「自由に発想できるアートとは真逆で、地味で自由度の少ない世界だ」と思い込み、作家活動に打ち込めなかった就職時代を、自身では黒歴史のように思う時もありました。しかしながら、のちに自身がデザインしグッドデザイン・ベスト100を受賞した「紙カミソリ(紙製ホルダのカミソリ)」は、この業界にいたからこそ思いついた商品です。すべては繋がっていると実感しました。その瞬間から、自分の黒歴史が白歴史になりましたね。笑

 

 

 

Q4:よく思い出したり、人生の支えとなっていたりする言葉はありますか?ことわざや誰かの言葉、あるいは自分が考えたオリジナルな言葉でも構いません。

「君子危うきに近寄らず」です。父にポロッと言われたことを鮮明に覚えています。職場で困難があった時、父からもらったアドバイスでした。「教養があり徳がある者は、自分の行動を慎むものだから、危険なところには近づかない」という意味です。私は思いつきで行動しやすい人間なので、知らず知らずのうちに危険なことにも近寄りがちです。笑 例えば、夜中の3時に蔵王の温泉街を一人で練り歩き、足湯をしながらうたた寝して数時間過ごしてしまったことも。「君子危うきに近寄らず」という言葉を胸に、仕事の上でも自分を律するようにしています。

 

 

Q5:今まででお金、時間、エネルギーなど何でもよいが自分のリソースを投下して最も価値のあったものは何だと思いますか?

産、子育てでしょうか。私は小学1年生の男の子の母親です。お金や時間、エネルギーも子どもに1番使っていると思います。価値があるかどうかは人それぞれですが、「親子」という信頼関係が築ける間柄において、子どもに愛情をかけた分だけ自分にも返ってくるので、自分にとっては最も価値が高いかもしれません。

 

 

Q6:自分の中でくだらないけれどなぜか止められないクセや習慣はありますか?

々あり過ぎて…。笑
物を隠しちゃうことですかね。すぐ棚とかポケットに何かをしまってしまいます。部屋をモデルルームのように綺麗にしておこう、物を出さないでおこうと思い、深く考えずあちこちに物をしまった結果、どこに何をしまったか分からなくなってしまうことも。職業的なことも影響しているのか、第三者の目線を気にして、余計なものは見せないようにしようと努力はするものの、意図せずものを隠してしまうのはクセかもしれません。

 

 

Q7:ここ数年であなたの人生をよりよくしてくれた新しい考え方や行動はありますか?

子が産まれてから規則的正しく寝るようになりました。夜11時には寝ていることが増えました。寝かしつけながら自分も寝てしまうパターンです。早ければ夜8時くらいに寝ている時もあります。息子が産まれる前は2日に1回寝れば良いような生活でした。机に突っ伏して寝ていましたね。絵を描くことも含め、やりたいことが多すぎて眠れず、朝までに提出しなければいけないデザインの仕事にも追われていました。朝デザインを提出すると、すぐ修正依頼が来るので、そのまま寝ずに仕事を始めるという生活でした。何かに没頭してしまうタイプというか、過集中していたいというか、無意識でそうなってしまうんです。暇が苦手ですね。
昔はしょっちゅう体を壊していたのですが、規則正しい生活を送るようになってから、風邪などの病気が少なくなりましたね。

 

 

Q8:これから新たな挑戦をしようとしている若者へ伝えておきたいアドバイスはありますか?あるいは他者からのアドバイスで無視した方が良いと思うものはありますか?

ラえもんになってほしいです。ドラえもんは究極のイノベーターだと思います。「もし、のび太の泣き言が社会課題だとしたら、あなたはドラえもんとしてどんな解決方法を提示しますか?」と考えてほしい。これはデザインを志す人に対して、イノベイティブなデザインを生み出す方法を分かりやすく伝えるにはどうしたら良いか考えた時に思いつきました。例えば携帯電話。昔はありませんでしたが、ドラえもんでは遠隔で話ができる道具が出てきます。今では普通に存在するものですが、世の中に無いものを生み出す時のコツとして、ドラえもん目線になることをオススメします。

 

 

Q9:ここ数年で、うまくNOと言えるようになったこと(ビジネスでもプライベートでも)はありますか?断るコツはありますか?NOと言えるようになった結果、新たに気づいたことや役に立ったことはありますか?

直に話すこと。「裏も表も表です」とよく周囲に言っています。下手に立ち回っても失敗するタイプなので、正直に話すのがベストだと考えています。例えば「今は立て込んでいて、新規の仕事が受けられないんです。」と。昔は徹夜して仕上げれば良いと思っていました。自分に対して無茶をしすぎていましたね。今はちょっとゆとりをもって、時間をくださいと言います。

 

 

Q10:行き詰まった時、考えがまとまらなかった時、集中力が途切れた時、どうしていますか? 

泉と旅行です。週に4回は温泉に行っています。すぐ遠出したくなるので、週末は家族と出かけており、ほとんど家にいません。なるべく新しい、行ったことのない温泉を探して行きます。温泉は昔から好きでした。私は閏年生まれで、誕生日は4年に1回です。小さい頃、親に誕生日プレゼントとして「家族旅行=温泉旅行」をリクエストしてから、4年に1度の温泉旅行が我が家の恒例行事となりました。その思い出があるので、一人で温泉に浸かっていても、どこか家族で楽しいことをしている気分になります。

 

 

Q11:サルバドールされたアートや芸術はありますか?単純に好きなアートや芸術でも構いません。 

1964年に出版されたオノ・ヨーコさんの詩集『グレープフルーツ』に収められた、「地球が回る音を聴きなさい」(“地球の曲”より)というフレーズが好きです。地球が回る音は聴こえないけれども、その一節があるだけで地球が回っていることに対して意識が集中します。『グレープフルーツ』には、地球だけでなく、自然や宇宙・時空間に関する詩が書かれています。昨今、様々な困難がある中で「想像力」は、現状を打破する突破口になると考えています。アートには未曾有の事態に立ち向かう力があります。『グレープフルーツ』は、その力を感じさせてくれます。

 

 

Q12:人生のターニングポイントにおいて、あなたに大きな影響を与えた人物は誰ですか?(有名人でも誰でも構いません)または誰にサルバドールされましたか?そして誰をサルバドールしたいですか?

域活性化の仕事で行った沖永良部島(おきのえらぶじま)で出会った小学生三姉妹です。彼女たち(竿りりちゃん、はなちゃん、めいちゃん)は「うじじきれい団」として、毎朝小学校に行く前に、浜に漂流したゴミを拾い続けて5年以上が経ちます。大人が出したであろうプラスチックゴミを、子どもが拾っている光景を毎日Facebookで目にし、日々申し訳なさを感じていました。それが起爆剤となって、プラスチックゴミを少しでも減らしたいとの思いから、紙製カミソリのアイディアが生まれました。当時カミソリメーカーでデザインをしていた立場で、そのような提案をするのは必然でありました。
困っている人の顔が見えると助けてあげたくなりますね。これからも、地に足をつけて地道に頑張っている人の力になりたいです。

 

 

 

LINK:

加藤弥生

https://www.facebook.com/kato.yayoi.5

WASHINKAN

https://www.washinkan.jp/

 

経営 アート クリエイティブ 経営者 アートディレクター

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